医学翻訳の勉強
出版翻訳の場合
出版翻訳をする人は特に、語彙が豊富で確かな語感を備えている必要があると思います。とあるウェブページによると、岩波文庫の外国文学を500冊以上読んでおくことが最低基準だそうです。それだけ文学書を読めば、様々な場面で使われる表現が自然に身に付くと思いますし、対訳に依存することなく自分が持っている表現力で素晴らしい訳文を書くことができるでしょう。このような土台なくして、無から有を生み出すことはできないと思います。でも、技術翻訳を目指す人はそこまで厳しくなくてもよいと私は思うのです。技術文書は、製造業に関わる普通の会社の各部署で普通の人が作成するものであり、部外者にとっては確かに見慣れない専門用語や表現がありますが、特別に美文である必要はなく、当たり前のことを矛盾なく書いていれば、それで大きな問題はないでしょう。ですから、専門書を500冊読まなければ正しい技術文書が書けない・・・ということは無いはずです。
1/10の努力
医学翻訳をする人の努力量は文芸翻訳の1/10で良いと仮定しましょう。つまり50冊です。他人の努力の1/10で良いとすれば、これは本当に楽です。楽して儲けるというと、なんだか怪しいセールスのようですが、仮に1/10と考えます。たとえばNew England Journal of Medicineという医学雑誌を毎週読めば1年間で約50冊です。わたしが顧客であったとして、誰かに翻訳を依頼するとき、その翻訳者がNEJMを50冊読んでいますと言えば「それなら大丈夫だろう」と安心して頼めます。たった1/10の努力でも、医療翻訳ならそれなりに通用するのではないでしょうか。
僅か1/100の努力
とは言っても、NEJM誌を50冊読むことは、私の基準から見ると大変な努力です。では1/100ならどうでしょうか。本文すべてではなく、アブストラクトだけ対訳にして1年分読むとします。抄録の単語数はわずか250程度ですから、本文全体の1/10以下です。1/10の努力のさらに1/10ですから、僅か1/100の努力ということになります。文芸翻訳を目指している方から見れば「1%の努力なんて努力のうちに入らない」とお叱りを受けるかもしれませんね。でも抄録を対訳にして毎週勉強するのにお金はかかりませんし、まずはこれから始めてみてはいかがでしょうか。文芸本500冊読破に比べると僅か1%の勉強量に過ぎませんが、人生厳しい道ばかりとは限りません。