対訳から始める医薬翻訳

医薬翻訳に興味があって勉強を始めようと思った人は、まずどこから手をつけていいのか戸惑うことと思います。インターネットを通して通信講座に申し込んだり、翻訳学校に通って指導を受けるのもひとつの方法です。都会に住んでいる人なら派遣社員として製薬会社で働きながら実地訓練を受けることもできますが、誰でもそういうチャンスに恵まれるわけではありません。
雑誌を見たりネットを眺めているうちに、インターネット上には無料で入手できる医薬の翻訳文書が沢山あることに気づきました。この対訳を利用すれば効率が良さそうです。こうした試みを実行して役に立ちそうだと思った事を書いてみようと考え、ホームページを作りました。医薬翻訳の扉がある程度形になって来たら、掲示板を利用して有志の方と一緒に訳文検討会を開いて勉強したいと思っていますので、希望者は相互リンクのページからご連絡ください。

文書の種類

翻訳会社のホームページをいくつか見てみると、色々な種類の文書が翻訳対象になるようです。治験総括報告書、治験薬概要書、治験実施計画書、副作用症例報告書、患者の同意説明文書などは臨床試験がらみの文書です。医薬品として市場に出てからも安全性定期報告書、海外副作用情報、行政通達文書などが発生するようですし、添付文書、マーケティング資料、販促資料などもあります。そのほか、非臨床試験報告書、標準業務手順書(SOP)、照会事項、薬物動態、前臨床試験、診断機器マニュアル、試験方法、ガイドライン等、ちょっとイメージがつかめないのもあります。医学論文の抄録はMedlineなどデータベースで公開されており、古い論文は無料で全文を入手できる場合があります。

論文抄録

最初から長い文書を訳すのは大変ですから、できるだけ短いものを選んで練習した方が良いと思います。最も短い文書は医学論文のアブストラクトのような気がします。論文抄録はデータベースに登録する意味もあり、ほとんどの医学雑誌で250単語までと決められているようです。わたしは最初の足がかりとして、New England Journal of Medicineを勉強材料に選んでみました。毎週木曜日に3つか4つの新しい抄録が発表されるので、勉強のリズムを作る上でも助かっています。この雑誌は様々な臨床分野を扱っており、循環器系、消化器系、呼吸器系、筋骨格系、代謝系の疾患について、広く浅く勉強することができます。ニューイングランドジャーナルオブメディスン誌の論文は、発表されてから半年経過すると全文が閲覧可能になります。PDFが無料でダウンロードできるので、図表も見ることができて大変便利です。

図書館、医学書店、古本屋の利用

今はインターネットであらゆる情報が入手できるので、高価な医学書を無理に買う必要はないと思います。でも、良質の情報を探すためには、ある程度の基礎知識が必要です。折に触れて地元の公共図書館や大型書店に足を運んで、専門書や翻訳技術のガイド本に目を通しておくと良いと思います。成書もそうですが、医学雑誌も参考になります。医師が書く文章の流れや表現に慣れることができますし。BOOK・OFFにも思わぬ良書や辞書が眠っていることがあります。図書館で借りて、これはぜひ必要と思った本を購入すれば失敗がないでしょう。アマゾンでは古本も注文できます。わたしもひとつ古本を買いましたが、書き込みや汚れもなく、とても満足できる品質でした。

英文法

みなさんは英文法に自信がありますか?わたしは英文を読んでいて、構文や修飾関係が十分理解できないことがよくあります。辞書を見ても霧がきれいに晴れないというか、自分で完全に納得できないまま、何となく誤魔化してしまうときが結構あります。こういう場合、英文法の教科書を最初から最後まで読めば解決できるのかどうか少し疑問を感じます。全般をさらっと流すより、理解しにくい部分を重点的に勉強できればと思います。この悩みに対する答えが「翻訳の泉」です。非常に良くまとまっていて、これを通信講座にしても良いぐらいの充実内容ですが、無料のサイトです。まだ、最初の9回分しか読んでいませんが、英文法や語法が不安な人はぜひアクセスして見てください。

英語検定試験

医薬翻訳を行うために必要な資格は特にありませんが、トライアルを申し込む時の履歴書に書く内容が淋しいので、何か資格のひとつでもあればと考えるのは私だけではないと思います。ただ、資格取得のために時間を費やすのもあまり得策ではないような気がします。英検やTOEICは誰でも名前ぐらいは聞いたことがありますね。翻訳技能認定試験というのもあるそうです。さらに、医学英語検定試験が最近できました。まだ1回か2回程度しか実施されていないようですが。今度街に出たとき、本屋にテキストが置いてあれば、様子を見てみようと思います。

医薬翻訳の需要

一番大きな顧客は製薬会社だと思うのですが、「2010年問題」が医薬品業界で懸念されているようです。これは、2010年頃から大型医薬品の特許が切れ始め、各企業の収益に影響を及ぼすという問題です。ポストゲノム時代では新規医薬品のターゲットが増えるのかと思いましたが、むしろ減少しているのでしょうか。新薬の数が減少すれば依頼案件数も減ってしまいます。私が心配しても仕方がないことですが、新聞などで扱われると少し気になるところです。後発医薬品(ジェネリック)についても勉強しておく方が良いかもしれません。たまにテレビでジェネリック医薬品のコマーシャルを見かけたり、製薬会社のホームページで後発医薬品メーカーとの特許訴訟について経過報告を掲載していることがありますね。日本ジェネリック医薬品学会では「かんじゃさんの薬箱」というページがあり、分かりやすく説明しています。

バイオの雑誌

バイオの話題はテレビや新聞でも時々ニュースになりますが、詳しい内容はよく理解できないことが多いです。医学翻訳でもバイオ技術を扱うことがあるので少しは知っておきたいのですが、いきなり専門誌を英語で読むのは難しいです。先日書店で見かけたMedical Bioがお勧めなので紹介します。オーム社から出ている医薬・生命科学誌で、試読誌キャンペーン中なので無料で1冊送ってもらえるのです。最新号は「がん転移・浸潤に対する新たな治療戦略」でした。ほかにも実験医学や細胞工学という雑誌があります。もし図書館に置いてあったら借りて読んでみましょう。